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大阪高等裁判所 昭和40年(う)264号 判決 1965年8月10日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴趣意第一点について。

論旨は、被告人が原判示第一、(イ)および第二(イ)の場所に立入つた行為は、軽犯罪法第一条第三二号には当らず、右各行為については鉄道営業法第三七条違反の罪が成立するにすぎない。かりに軽犯罪法第一条第三二号にも当るとしても、右法条と鉄道営業法第三七条とは一般法、特別法の関係にあり、特別法である鉄道営業法第三七条のみを適用処断すべきものである。しかるに被告人の右各行為に軽犯罪法第一条第三二号のみを適用した原判決は、法条の解釈、適用を誤つたものであると主張する。

しかし、軽犯罪法第一条第三二号は「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者」と規定していて、同号は講学上いわゆる田畑等不法侵入罪と呼称されているけれども、他人の田畑に入つた者のみを処罰するものでないことは、同号立法の趣旨並びに規定の文言上明白であつて、同号にいう「入ることを禁じた場所」とは、ひろく他の法令により立入を禁止されている場所あるいは他の法令の規定により立入禁止処分権を有する者が立入を禁止する趣旨を表示した場所をいうものと解すべきであり、右のように解釈しても、これをもつて同号本来の目的を逸脱するものということはできない。<証拠>によると、被告人は、乗降客に旅館の宿泊を勧誘する目的をもつて、国鉄京都駅中央コンコース横の出札室前附近(原判示第一(イ))および同中央コンコース前の駅前広場(同第二、(イ))に立ち入つたものであるが、右国鉄京都駅舎および駅前広場は、いずれも日本国有鉄道の所有であつて(但し駅前広場北端の両側に一部京都市の市有地があるが、本件とは関係のない場所である)、国鉄京都駅長が、これを管理しているものであり、右駅舎内の中央、東口および西口各コンコース内、および駅前広場の三個所合計六個所には、京都駅長、七条警察署長、京都鉄道公安室長名義をもつて「乗車券の販売、車内の座席売り、物品販売、配付、演説、勧誘、客引きおよび寄付を請うなどの目的で駅構内に無断で立入ることはできません違反すると処罰されます」旨の看板を掲示して、右のような目的での駅構内無断立入を禁止する趣旨を表示しており、国鉄ないしは国鉄京都駅長において、客引きの目的で京都駅構内に立ち入ることを許諾したことはないこと、右の駅構内というのは、場内信号機と場内信号機の間(停車場区域標が設けてあるときは、その区域標の間)の用地境界内をいい、駅前広場を含む趣旨であり、客引きのための駅前広場への立入が禁止されていることは、京都市においては一般に周知されていたことが認められる。右認定のとおりであつて、国鉄京都駅長は、日本国有鉄道組織規程第七九条、第八二条、第一二八条などによる管理権に基き、客引きなどの目的をもつて、同駅舎内および駅前広場に立入ることを禁止し、その旨を表示しているのであり、したがつて、右の目的をもつて右場所に立ち入ろうとする者に対しては、右場所は軽犯罪法第一条第三二号所定の「入ることを禁じた場所」にほかならないから、被告人の前記立入行為が軽犯罪法第一条第三二号に当らないとの所論は採るを得ない。ところで、他方、鉄道営業法第三七条は「停車場其ノ他、鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス」と規定して、停車場その他の鉄道地内への不法な立入行為を禁止処罰しており、駅前広場は右法条にいう停車場に含まれるものと解するのが相当であるから、被告人の本件各立入行為が右法条にも該当することは所論のとおりである。しかるところ、所論は、軽犯罪法第一条第三二号と鉄道営業法第三七条とは、一般法と特別法の関係にあるというけれども、軽犯罪法第一条第三二号は、刑法第一三〇条の補充規定であつて、住居侵入罪には該当しない違法性のより軽微な特定の場所に対する不法な侵入行為を禁止し、その場所に対する人の支配の平穏を維持しようとするものであると解せられるのに対し、鉄道営業法第三七条は、鉄道営業の安全と、円滑な運営とを保護する規定であると解せられ、両者はその保護法益を異にするのであるから、両者は、所論のように一般法、特別法の関係にあるとはいえず、いわゆる観念的競合の場合に当るものと解するのが相当である。したがつて、原判決が、本件各立入行為に対し軽犯罪法第一条第三二号を適用したことに所論の違法は存しないけれども、鉄道営業法第三七条の適用を遺脱したことは法令の適用を誤つたものといわなければならない。しかし、結局刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、重い軽犯罪法第一条第三二号違反の罪によつて処断すべきこととなるのであるから、右の違法は判決に影響を及ぼさないことが明らかである。論旨は理由がない。(山崎薫 竹沢喜代治 佐々木史朗)

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